1. ラプラシアンって何?
ラプラシアン (Laplacian) はスカラー関数を
各座標について 2 回ずつ偏微分して足し合わせる演算子です。
記号は ∇2、または Δ。
3 次元では次のように書きます。
∇2f=∂x2∂2f+∂y2∂2f+∂z2∂2f
名前は Pierre-Simon Laplace (ラプラス) から。
やっていることは「各方向について 2 回偏微分して合計する」それだけです。
2. 前提: 勾配 (∇f) と 発散 (∇·A)
ラプラシアンを導く前に、勾配と発散の定義を最小限で思い出しておきます。
詳しくは ナブラ ∇ の記事 を先に読んでください。
勾配 (gradient, ∇f)
スカラー f から、「最も増加する向き」を指すベクトルを作る。
∇f=(∂x∂f, ∂y∂f, ∂z∂f) 発散 (divergence, ∇·A)
ベクトル場 A から、スカラー量「湧き出し度合い」を取り出す (∇ と A の内積)。
∇⋅A=∂x∂Ax+∂y∂Ay+∂z∂Az 3. 勾配の発散 = ラプラシアン
ラプラシアンは、勾配 ∇f をもう一度発散 ∇⋅ にかけたものに等しくなります。
∇2f=∇⋅(∇f)
順番で追うと:
- スカラー f に勾配 ∇ をかけてベクトル ∇f にする
- そのベクトルに発散 ∇⋅ をかけてスカラーに戻す
スカラー → ベクトル → スカラー の往復で得られるのが、ラプラシアンです。
4. 計算してみる
具体的な関数でやると手順が身につきます。
例 1: f(x,y,z)=x2+y2+z2
- ∂2f/∂x2=2
- ∂2f/∂y2=2
- ∂2f/∂z2=2
∴ ∇2f=6 例 2: f(x,y)=xy
- ∂2f/∂x2=0
- ∂2f/∂y2=0
∴ ∇2f=0 xy のように各変数について 1 次の関数は 2 階微分で消えるので、ラプラシアンはゼロ。
例 3: f(x)=e−x2 (1 次元)
- f′(x)=−2xe−x2
- f′′(x)=(4x2−2)e−x2
∇2f=(4x2−2)e−x2
演習 #1
次のスカラー関数の 3 次元ラプラシアンを計算しよう。
f(x,y,z)=x2+y2+z2
▶ 解答を見る 解答
各成分の 2 階偏微分は:
- ∂x2∂2f=2
- ∂y2∂2f=2
- ∂z2∂2f=2
合計して:
∇2f=2+2+2=6
ポイント: 等方的な 2 次関数は空間のどこでも同じ定数のラプラシアンを返す。
5. 電磁気: ポアソン方程式
電磁気の静電場では、ポテンシャル φ と電荷密度 ρ の関係が
ラプラシアンで書かれます。これが Poisson 方程式:
∇2φ=−ε0ρ
左辺はポテンシャルの「曲がり具合」、右辺は源 (電荷密度)。
つまり ラプラシアンは「ポテンシャルと源密度をつなぐ橋」の役割。
静電場で「力を求める」全体フロー:
- 源密度 ρ (電荷分布) が与えられる
- Poisson 方程式 (ラプラシアンを使う) を解いて φ を得る
- 勾配 F=−∇φ で力を計算 (これは ナブラ記事 の話)
ラプラシアンは真ん中のステップを担当する。
力への変換は勾配 (ナブラ) がやる、という分担関係。
源がない場所 (真空) では ρ=0 なので ∇2φ=0。
これは Laplace 方程式で、調和関数の理論につながります。
演習 #2
Coulomb 型ポテンシャル φ(r)=1/r (ただし r=x2+y2+z2>0) について、ラプラシアン ∇2φ を計算しよう。
ヒント: 球対称な関数 f(r) の 3 次元ラプラシアンは
∇2f=r21drd(r2drdf)
で書ける。
▶ 解答を見る 解答
f=1/r に対して:
- drdf=−r21
- r2drdf=−1
- drd(r2drdf)=0
したがって
r>0 で:
∇2(r1)=0
ポイント: 原点を除いた全空間で 1/r は Laplace 方程式 ∇2φ=0 を満たす。
原点では発散し、合わせると ∇2(1/r)=−4πδ3(r) となる (デルタ関数)。
ここから Coulomb の法則 ∇2φ=−ρ/ε0 が導ける。
6. 拡散・波動・量子での出番
ラプラシアンは Poisson 方程式以外にも、物理の主要な偏微分方程式のほぼ全てに顔を出します。
熱方程式 (拡散)
∂t∂u=α∇2u
温度や濃度が「空間的な凸凹をならす」動きを表す。ラプラシアンが正なら盛り上がって、負なら凹む。
波動方程式
∂t2∂2u=c2∇2u
電磁波・音波・弦の振動など。空間の 2 階微分 (ラプラシアン) が時間の 2 階微分を駆動する。
シュレーディンガー方程式
iℏ∂t∂ψ=−2mℏ2∇2ψ+Vψ
量子力学の運動エネルギー項は −ℏ2/(2m)⋅∇2。これもラプラシアン。