1.「独立解 + 任意定数」って何? 動機
物理の問題で 2 階の微分方程式が出てくると、解として
x(t)=c1x1(t)+c2x2(t)
のような形が 「一般解」として書かれます。
x1,x2 は独立な 2 つの解、c1,c2 は任意定数。
疑問が 2 つ:
- なぜ和の形で書ける? — 2 つの解を足したものも、また解になっている?
- なぜ「2 個」なのか? — 3 個でも 1 個でもなく、ちょうど 2 個の任意定数で全部の解が書ける?
答えはどちらも線形性に行き着きます。以下、ステップを追って見ていきます。
2. 線形微分方程式と線形作用素 定義
微分方程式が「線形」であるとは、左辺をひとつの線形作用素 L にまとめて書けるという意味です。
L[x]≡an(t)x(n)+an−1(t)x(n−1)+⋯+a1(t)x˙+a0(t)x=0
ここで L が線形作用素とは、関数 x(t) を別の関数 L[x](t) に変える操作のうち、次の 2 つの性質を満たすもの。
L[x1+x2]=L[x1]+L[x2],L[cx]=cL[x]
意味:
- 先に足してから L を作用させる のと、
先に L を作用させてから足す のが同じ結果になる
- 先に c 倍してから作用 と、
作用してから c 倍 が一致する
具体例:微分 d/dt は線形作用素(和の微分は微分の和、定数倍の微分は微分の定数倍)。
関数を a(t) 倍する操作も線形。
線形 ODE の左辺は、微分と関数倍を組み合わせて作るので全体としても線形 ── これが L です。
物理に出てくる方程式の多くが線形 ── 単振動 x¨+ω2x=0、波動方程式、Maxwell 方程式、Schrödinger 方程式など。
一方、x¨+x3=0(x3 の項)や x˙=x2 などは非線形で、以下の話は成り立たない。
3. 重ね合わせ — 解の和も解 派生関係
線形作用素の性質から、ひとつ大事な結果がすぐ出ます。
x1,x2 がともに L[x]=0 の解 (L[x1]=L[x2]=0) のとき、
任意の定数 c1,c2 について c1x1+c2x2 もまた解になる:
L[c1x1+c2x2]=c1L[x1]+c2L[x2]=c1⋅0+c2⋅0=0
これを重ね合わせの原理と呼びます。線形性の 2 つの性質を使うだけで一発で出ます(演習 #1)。
数学の言葉で言うと、線形 ODE の解の集合は線形空間(ベクトル空間)を成すということ ──
解どうしの和もスカラー倍も、また解の集合に入っているからです。
演習 #1
重ね合わせの確認. 線形 ODE L[x]=0 の解 x1(t),x2(t) があるとする。
このとき、任意の定数 c1,c2 について c1x1+c2x2 もまた L[x]=0 の解になることを、
線形作用素 L の線形性
L[x1+x2]=L[x1]+L[x2],L[cx]=cL[x]
から示そう。
▶ 解答を見る 解答
L[c1x1+c2x2] を、線形性を 2 段階で適用して展開する。
まず和の線形性:
L[c1x1+c2x2]=L[c1x1]+L[c2x2].
次にスカラー倍の線形性:
L[c1x1]=c1L[x1],L[c2x2]=c2L[x2].
合わせて:
L[c1x1+c2x2]=c1L[x1]+c2L[x2].
仮定より L[x1]=0, L[x2]=0 なので、
L[c1x1+c2x2]=c1⋅0+c2⋅0=0.✓
つまり c1x1+c2x2 も解。
意味:解と解の和(およびスカラー倍)もまた解になる ── これを重ね合わせの原理と呼ぶ。
線形 ODE 特有の性質で、線形性が破れる(非線形項がある)と成り立たない。
4. 解空間の次元 = 微分方程式の階数 派生関係
§3 で「解の集合は線形空間」とわかった。次は、その次元(=独立な解がいくつあるか)を考えます。
事実: n 階の線形 ODE の解空間は、ちょうど n 次元。
つまり、n 個の互いに独立な解 x1,x2,…,xn を見つければ、
すべての解は次の形に書ける:
x(t)=c1x1(t)+c2x2(t)+⋯+cnxn(t)
任意定数の数 n は、ODE の階数と一致 ──
これが「2 階 ODE は任意定数 2 つ」「1 階 ODE は任意定数 1 つ」と言われる理由です。
なぜ次元は階数 n ?
ざっくり 2 つの観点で:
- 初期条件の数:解を一意に決めるには x(0),x˙(0),…,x(n−1)(0) の n 個が必要(存在と一意性の定理)。
つまり「自由度」が n 個ある
- 線形代数の事実:適切な条件下で、n 階線形 ODE には独立解がちょうど n 個取れる
(Wronskian で独立性を判定する)
証明の詳細は微分方程式論のテキストに譲ります。物理で使う限りでは「階数 = 任意定数の数」と覚えておけば間違いないです。
演習 #2
初期条件で任意定数を決める.
単振動 x¨+ω2x=0 の独立解 cosωt, sinωt を使うと、一般解は
x(t)=acosωt+bsinωt.
初期条件 x(0)=x0, x˙(0)=v0 を満たす a,b を決めよう。
▶ 解答を見る 解答
初期位置:t=0 を代入。
x(0)=acos0+bsin0=a.
これが x0 だから a=x0。
初期速度:まず微分。
x˙(t)=−aωsinωt+bωcosωt.
t=0:
x˙(0)=bω.
これが v0 だから b=v0/ω。
結果:
x(t)=x0cosωt+ωv0sinωt.
意味:任意定数 a,b は初期条件 2 個(位置・速度)とぴったり対応する。
2 階 ODE の任意定数が 2 個なのは、初期条件として位置と速度の両方が必要だから ── 階数と任意定数の数が一致する直感的な理由。
5. Wronskian — 独立性を判定する道具 定義
§4 で「独立な解 n 個があれば、その線形結合で全部の解が書ける」と言いましたが、
手元にある n 個の関数が本当に独立かはどう判定すればよいでしょう。
答えは行列式を使う Wronskian(ロンスキアン)。
行列式の計算方法 が分からない人は、先にこちらを。
2 関数の Wronskian
関数 x1(t),x2(t) に対する Wronskian は
W(x1,x2)(t)≡det(x1(t)x˙1(t)x2(t)x˙2(t))=x1x˙2−x2x˙1
で定義される関数(時刻 t ごとに値が決まる量)。
行列の各行は順に「関数」「その 1 階微分」を並べる。
独立性の判定
事実: ある時刻 t0 で W(x1,x2)(t0)=0 なら、
x1,x2 は線形独立。
逆向き(W≡0 なら従属)は一般には成り立たないものの、
同じ線形 ODE の解に限れば成り立ちます(Abel の公式)。
実用上、線形 ODE の話のなかでは W=0 ⇔ 独立 と覚えてよい。
具体例 1:単振動の解 cosωt, sinωt
単振動 x¨+ω2x=0 の 2 つの解 cosωt と sinωt の Wronskian
W(cosωt,sinωt)=cosωt⋅ωcosωt−sinωt⋅(−ωsinωt)=ω(cos2ωt+sin2ωt)=ω=0 ω=0 なので独立。
つまり一般解は acosωt+bsinωt で書ける(演習 #2 はこの上の話)。
具体例 2:異なる指数 eαt, eβt
W(eαt,eβt)=eαt⋅βeβt−eβt⋅αeαt=(β−α)e(α+β)t α=β なら β−α=0 でいつも非ゼロ → 独立。
一般の n 関数
n 個の関数の Wronskian は n×n 行列の行列式。
行は順に「関数」「1 階微分」「2 階微分」… (n−1) 階微分まで並べる。
W(x1,…,xn)(t)=detx1x˙1⋮x1(n−1)x2x˙2⋮x2(n−1)⋯⋯⋯xnx˙n⋮xn(n−1)
階数 n の線形 ODE では、n 個の独立解があることを保証してくれるのが線形代数の定理(n 次元の解空間の存在)、
本当に独立か確かめるのがこの Wronskian、という分担。
演習 #3
非線形では重ね合わせは成り立たない. 微分方程式
x¨+x3=0
は非線形(x3 の項のせい)。
x1(t),x2(t) がこの方程式の解だったとして、x1+x2 はどこで「解になり損ねる」か、
左辺を計算して確認しよう。
▶ 解答を見る 解答
x1,x2 はそれぞれ次を満たす:
x¨1+x13=0,x¨2+x23=0.
ここで y=x1+x2 を代入してみる:
y¨+y3=(x¨1+x¨2)+(x1+x2)3.
二乗・三乗を展開:
(x1+x2)3=x13+3x12x2+3x1x22+x23.
代入して整理:
y¨+y3==0(x¨1+x13)+=0(x¨2+x23)+3x12x2+3x1x22.
最初の 2 項は仮定よりゼロだが、余計な交差項
3x12x2+3x1x22=3x1x2(x1+x2)
が残ってしまう。これが一般にゼロではないので x1+x2 は解ではない。
意味:非線形項 x3 が x1,x2 を「混ぜる」交差項を生むのが原因。
線形 ODE では でクリーンに分解できたが、
非線形では分解できない ── これが重ね合わせが効かない数学的な正体。