1. なぜ普通の微分ではダメか 動機
Vierbein で曲時空に スピノル ψ(x) を置けました。
スピノルは局所 Lorentz 変換のもとで
ψ′(x)=S(Λ(x))ψ(x)
のように動きます(S(Λ) はスピノル表現での Lorentz 変換)。
ここで Λ(x) が 場所ごとに違うことが効いてきます。
このスピノルを普通に偏微分すると、ライプニッツ則から:
∂μψ′(x)=S(Λ)∂μψ(x)+(∂μS(Λ))ψ(x)
右辺の第 2 項 (∂μS(Λ))ψ が余計に出ます。
これがあると、変換した方とそうでない方を比較しても揃わない ──
つまり ∂μψ は共変的に変換しません。
共変性そのものに馴染みがなければ、まずは 共変性入門 を一読すると、この「余計な項が出る」流れが自然に追えます。
通常のテンソル Vν なら、Christoffel Γμρν を加えて
∇μVν=∂μVν+ΓμρνVρ とすれば共変的になりました。
スピノルにも同じ機構が必要です。
ただし、補正項はカーブド添字に作用するのではなく、
フラット添字に作用する別物でないといけません(スピノルはフラット世界の住人だから)。
この役を担うのが スピン接続 ωa^b^μ。
2. スピン接続 ω の定義 定義
スピン接続 ωa^b^μ は、
フラット添字 2 つ(a^,b^)と
カーブド添字 1 つ(μ)を持つ場で、
次の 2 つの性質を持ちます。
- (a^, b^) について反対称:
ωa^b^μ=−ωb^a^μ
-
スピノル共変微分の補正項として現れる(詳細は次回 #3):
Dμψ=(∂μ+41ωa^b^μγa^γb^)ψ
反対称性は「内部 Lorentz の生成子は反対称行列だから」と覚えておくと自然
(生成子の値域そのものに ω が住んでいる)。
演習 #3 で内部計量 ηa^b^ から導きます。
3. ω はどう決まる? 動機
スピン接続は新しい量。"反対称" (§2) という性質はわかっているけど、
具体的な値(成分)はまだ何も決まっていません。
別途決め方を与える必要があります。
出発点:接続が「2 種類」存在している状況を整理する
ここまでの登場人物:
- Christoffel Γμνλ:
カーブド添字を共変的に動かす補正項。テンソルの共変微分を作る(重力シリーズで詳しく)
- スピン接続 ωa^b^μ:
フラット添字を共変的に動かす補正項。スピノルの共変微分を作る(本記事の主役)
2 つの接続は別々の添字世界で働きます。問題は、両者を独立に決めると整合がとれないこと。
というのも、ベクトル V は同じ実体なのに、カーブド添字で書くか
(Vμ)、フラット添字で書くか
(Va^=ea^μVμ)を選べる。
どちらで書いても共変微分の結果は同じ実体を指しているはずなので、Γ と ω はバラバラに決められない。
整合性をどう保つか:Vierbein を「動かない」と要請する
Γ と ω をつなぐ唯一の道具は、両方の添字を持つ Vierbein ea^μ です。
Vierbein はカーブド世界とフラット世界の翻訳器(#1 §6)。
この翻訳器そのものが場所によって "ねじれ" てしまうと、両世界の対応関係が点ごとに変わって整合がとれなくなる。
そこで自然な要請:
Vierbein を共変微分するとゼロ。
意味は文字どおり:翻訳器を共変的に動かしても変化がない =
翻訳の対応規則が場所によらず維持される。
これが Christoffel と スピン接続の整合条件になります。
Vierbein にはカーブド添字 ν とフラット添字 a^ の両方が乗っているので、
共変微分すると両方の接続が現れます ──
カーブド側に Γ 補正、フラット側に ω 補正。
要請を式に書き下すと、Γ と ω が 1 本の式で結ばれる。
結果として、Γ が(計量から)決まれば ω も決まる、という関係が出ます。
これが次節の Tetrad postulate。
補足:この要請は ∇μgνρ=0(計量の共変微分がゼロ)を含意します。
Vierbein から計量が gμν=ηa^b^ea^μeb^ν と書けたから、
Vierbein がゼロになれば計量もゼロ。
通常の重力理論で標準採用されるLevi-Civita 接続(計量と共変微分の両立)が、ここに含まれている形。
演習 #1
平坦時空でのチェック. Minkowski 時空をデカルト座標で取ると、Vierbein は ea^μ=δa^μ(定数)、Christoffel は Γμνλ=0(定数計量だから)。
このとき Tetrad postulate
∂μea^ν−Γμνλea^λ+ωa^b^μeb^ν=0
から、スピン接続 ωa^b^μ がすべてゼロになることを示そう。
▶ 解答を見る 解答
代入していくだけ:
- ∂μea^ν=∂μδa^ν=0(定数の微分)
- Γμνλea^λ=0⋅δa^λ=0
- 残りは ωa^b^μeb^ν=ωa^b^μδb^ν=ωa^νμ
(
δ で潰したので時空添字
ν がそのままハットなしで出てくる)。
Tetrad postulate より:
0−0+ωa^νμ=0⟹ωa^νμ=0
各 (a^,ν,μ) で成り立つので、すべての ω 成分はゼロ\strong>。
意味:平坦かつデカルト座標では、Vierbein が定数なので「翻訳器」の "ねじれ" がない。Christoffel もゼロ。よってスピノルを微分する補正項も不要 ── 普通の ∂μ が共変微分そのもの。
4. Tetrad postulate 要請
§3 の整合性要請を、具体的に式で書き下しましょう。
鍵は、同じベクトル V を 2 通りの順番で「翻訳 + 共変微分」して、結果が等しいことを要求します。
経路 A:翻訳してから微分(ω を使う)
まず Vierbein でフラット添字に翻訳:Va^=ea^νVν。
続いてスピン接続で共変微分:
DμVa^=∂μVa^+ωa^b^μVb^
ここに Va^=ea^νVν と Vb^=eb^νVν を代入して Leibniz で展開:
DμVa^=Vielbein を微分した余計な項(∂μea^ν)Vν+偏微分を翻訳ea^ν(∂μVν)+ω 補正を翻訳ωa^b^μeb^νVν
3 項出てきます。最初の 「Vierbein を微分した余計な項」に注目しておいてください ── これがまさに、覚悟しないといけない邪魔者。
経路 B:微分してから翻訳(Γ を使う)
逆順:カーブド添字のまま Christoffel で共変微分してから、Vierbein で翻訳:
ea^ν∇μVν=偏微分を翻訳ea^ν(∂μVν)+Γ 補正を翻訳ea^νΓμρνVρ
こちらは 2 項。Vierbein の偏微分は出てきません(微分は V にだけかかるから)。
2 つを等号で結ぶ:何が打ち消されるか
経路 A と経路 B が等しいと要求します。
両辺をよく見ると、ea^ν(∂μVν)(偏微分を翻訳した項)が両側に同じ形で現れるので、打ち消し合います。
残るのは:
(∂μea^ν)Vν+ωa^b^μeb^νVν=ea^νΓμρνVρ
ここで Vν は任意のベクトル。両辺の V の係数を比較すれば、
V 自体は落ちて、添字 ν,ρ を揃えた式が出てきます:
∇μea^ν=∂μea^ν−Γμνλea^λ+ωa^b^μeb^ν=0
これが Tetrad postulate(四脚場の要請)です。
各項の意味
- ∂μea^ν ── Vierbein の偏微分(余計な項の正体)
- −Γμνλea^λ ── カーブド添字 ν に対する Christoffel 補正
- +ωa^b^μeb^ν ── フラット添字 a^ に対するスピン接続補正
要するに「Vierbein の偏微分から出る余計な項を、Γ と ω が協力して打ち消す」 ──
これが Tetrad postulate の中身。
Γ が(計量から)与えられれば、残りの方程式は ω についてだけのものとなり、
ω が一意に決まります(次節)。
5. ω は Vierbein と Γ から決まる 定理
Tetrad postulate を ω について解くと、
ω は Vierbein と Christoffel から一意に書けることが分かります。
手順は素朴で、Tetrad postulate を移項してスピン接続だけ左辺に残すと:
ωa^b^μeb^ν=−∂μea^ν+Γμνλea^λ
両辺に逆 Vierbein ec^ν を掛けて、§4 で見た完全性関係
eb^νec^ν=δb^c^ で潰せば、
スピン接続が単独で取り出せます:
ωa^b^μ=eb^ν(−∂μea^ν+Γμνλea^λ)
Christoffel Γ 自身は計量 g の偏微分で書ける(GR シリーズで扱う)、
そして g は Vierbein で書ける(#1 の定義)。
結局、ω は Vierbein e とその偏微分だけから書けることになります。
演習 #2 で具体的な座標(2 次元極座標)で ω を計算してみましょう。
演習 #2
2 次元極座標での計算. 2 次元 Euclidean 空間を極座標 (r,θ) で書くと
ds2=dr2+r2dθ2
(空間の話なのでフラット添字側の計量は ηa^b^→δa^b^=diag(+1,+1) と読み替える)。
Vierbein は対角:
er^r=1,eθ^θ=r,他の成分は 0.
Christoffel は
Γθθr=−r,Γrθθ=Γθrθ=r1,他はすべて 0.
このとき Tetrad postulate を (a^=r^,ν=θ,μ=θ) で書いて、ωr^θ^θ を求めよう。
▶ 解答を見る 解答
Tetrad postulate
∂μea^ν−Γμνλea^λ+ωa^b^μeb^ν=0
に (a^,ν,μ)=(r^,θ,θ) を代入。
各項を計算:
- ∂θer^θ=∂θ(0)=0
- Γθθλer^λ: λ の和。非ゼロは Γθθr=−r で、er^r=1。なので (−r)(1)=−r
- ωr^b^θeb^θ: b^ の和。非ゼロな eb^θ は eθ^θ=r のみ。なので ωr^θ^θ⋅r
合わせて:
0−(−r)+ωr^θ^θ⋅r=0
r+rωr^θ^θ=0
ωr^θ^θ=−1.
反対称性から ωθ^r^θ=+1 (添字を上げ下げした形での反対称)。
意味:Vierbein eθ^θ=r は r ごとに「目盛り」が違うフレーム。点を動かすと内部 Lorentz(平面回転)も少しずつ回る必要があり、その分が ω に乗っている。
演習 #3
反対称性の確認. スピン接続が (a^,b^) 添字で反対称になる、つまり
ωa^b^μ=−ωb^a^μ
を、内部の計量 ηa^b^(定数)が共変微分でゼロ ∇μηa^b^=0 であることを使って示そう。
ヒント:∇μηa^b^ を、テンソル添字 μ に対する Christoffel(η はテンソル添字を持たない)と、フラット添字 a^,b^ に対するスピン接続で書き下せ。
▶ 解答を見る 解答
ηa^b^ は時空添字 μ を持たないので、共変微分のうち Christoffel 項は出ません。スピン接続だけ:
∇μηa^b^=∂μηa^b^−ωc^a^μηc^b^−ωc^b^μηa^c^
η は定数だから ∂μηa^b^=0。これがゼロという要請より:
ωc^a^μηc^b^+ωc^b^μηa^c^=0.
η で添字を下げ:
ωb^a^μ+ωa^b^μ=0
∴ωa^b^μ=−ωb^a^μ.
両添字を上げると ωa^b^μ=−ωb^a^μ。 ✓
意味:スピン接続は内部の Lorentz 群の生成子(反対称行列)に値を取る。つまり、内部添字に対する「変換のし方」が Lorentz 変換でなければならない、という要請の現れ。